夢診断のお店indxお伽話の分析漁師とおかみさん

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-漁師とおかみさん-

むかしむかし、漁師とおかみさんがおりました。
ふたりは浜辺にへばりつくように立っている小便つぼのようなあばら家に、片を寄せあって暮らしておりました。
漁師は雨が降っても日が照っても、ピカピカ光る海へでかけていき、魚を釣りました。釣っては釣っては釣り暮らしていました。
その日もまた、漁師は釣り糸をたれて座り込み、海のおもてをじいっと覗いておりました。
そうやって、座って座って座り続けておりました。
すると釣り糸がぐいっと引っ張られて、ぐんぐん底のほうへもっていかれました。
引き上げてみると、大きなひらめが引っかかっておりました。そのひらめが、漁師に言いました。
「よく聞け、漁師よ。私は本当のひらめではない。魔法にかけられた王子なのだ。私を殺したってお前にいったいなんの得になる? 私はちっともおいしくないぞ。たのむから私の命を助けてくれ。海に戻して泳がせてくれ」
「よしよし、そんなにベラベラまくしたてなくたって、話しのできるひらめとくりゃあ、放してやるともさ」
漁師はそういって、ひらめをまたもとのピカピカ光る海に放してやりました。するとひらめは、一筋の長い血の糸をひいて海の底にもぐっていきました。そこで漁師は腰を上げ、おかみさんの待っているあばら家に帰っていきました。
「あんた、今日はなにも釣ってこなかったのかい?」
「ああ、だめだったよ。ひらめが一匹かかったことはかかったんだがな、そいつ、俺は魔法にかかった王子だなんてぬかすもんだから、また海に話してやったよ」
「それじゃ、あんた。なんにも願いごとはしなかったのかい?」
「ああ。だっていったい、なにを願えばよかったんだい?」
「もうイヤだイヤだ、こんな小便つぼみたいなオンボロ家に、いつまでもくすぶっているのはごめんだよ。変な臭いはプンプンするし、胸はムカムカするしさ。あんた、こじんまりした家がほしいって願うことだってできたじゃないか。ね、もう一度いってそのひらめを呼び出しなよ。そうしてあたしたち、こじんまりした家がほしいんだけどって言ってごらん、きっと叶えてくれるから」
「おいおい出なおすなんておかしいよ」
「ああ、じれったい。あんたはひらめを釣ったんだろ、そうして、また海に戻してやったんだろう。だったらきっと願いごとを叶えてくれるよ。さあ、いますぐ行っといで」
漁師はそれでもまだ気が進みませんでしたが、おかみさんに逆らうのもどうかと思い、海にでかけていきました。きてみると海はすっかり緑色や黄土色ににごっていて、もうさっきのようなピカピカと光ってはいませんでした。漁師は波打ちぎわまで来て言いました。
「おおい ひらめの兄さんよ どんぶらこっこの波の下 うちのおっかあ イルゼビルが おいらの言うこと きかねえんだ」
すると、あのひらめがすうっと泳ぎよってきて言いました。
「なんだ、おかみさんはなんて言ってるんだ?」
「それがなあ、おいらは確かにお前をつかまえたよな。おっかあの言うとこにゃ、そういうときは、なにか願いごとをするもんなんだと。それでだが、あいつは小便つぼみてえなところにはあいそがつきた。こじんまりした家がほしいんだって言ってるんだよ」
「帰ってごらん、おかみさんの願いがかなったよ」
そこで漁師が帰ってみると、お上さんはもうあばらやにくすぶってはいませんでした。もとの小屋があったところには、こじんまりした家が建っていて、おかみさんは戸口の前のベンチに座っていました。
「さあさあ、入ってごらんよ。どうだい、前よりずっとましだろ?」
ふたりがなかへ入ってみると、まず、ちょっとした玄関がありました。小さいながらも立派な居間には、ふたりの寝床が並んでいる寝室が続いていました。台所や食堂の戸棚におさまったなべやさらには、とびきり上等な品がそろっていて、手入れがゆきとどいていてピカピカ光っています。それはすずやしんちゅうのものばかりでした。
家の裏には可愛いに庭まで続いていて、にわとりやアヒルが遊んでいます。野菜や果物が取れる小さな畑もあります。
「ね、なかなかのもんじゃないかい?」
「まったくだ。いつまでもこんなぐあいだといいがなあ。俺たちふたり、腹のそこから愉快にくらそうじゃないか」
「それはまあ、これからよく考えるとしよう」
ふたりは腹ごしらえをすると、その日は眠ってしまいました。それから一、二週間は、なにごともなくすぎました。そのうち、おかみさんがこんなことをいいだしました。
「ねえあんた、この家は本当に狭くてしょうがない。庭だって畑だって狭いしさ、あのひらめ、もっと大きな家をくれたってよさそうなものだよ。わたしゃ、でっかい石造りの館にすみたいよ。ひら面とこへ入ってきてよ。お館をもらおうじゃないか」
「おいおいお前、この家でけっこうじゃないか。なんだって、俺たちがお館なんかにすむんだい?」
「もうさっさと行きなってば。ひらめにしてみりゃ、そんなこと朝飯前なんだから」
「おいらはいやだよ。ひらめはこの家をくれたばかりなんだ。また頼みに行くなんて、どうしたって気がすすまねえや。そんなことしてみろ、ひらめのやつ、気を悪くするに決まってらあ」
「行っといでよ、きっとふたつ返事でやってくれるさ。さぁ、行っといでってば」
「こいつは道理にあわねえよ」
どうしても行きたくない漁師は、一人でぶつくさ言っていましたが、それでもでかけていきました。
漁師が海に出てみると、海の水はどこもかしこもむらさきがかったり、青は青でも黒ずんでいたり、土気色をおびたりして、どろどろににごっています。もう、前のような緑色や黄土色どころではありません。けれども波はまだ穏やかでした。漁師は、波打ちぎわまで来ていいまました。
「おういひらめの兄さんよ どんぶらこっこの波の下 うちのおっかあイゼビルが おいらの言うこときかねえんだ」
すると、ひらめが現れて言いました。
「なんだ、おかみさんはなんて言ってるんだ?」
「じつはなあ、でっかい石造りのお館にすみてえだなんていうんだよ」
「帰ってごらん、おかみさんは玄関の前に立っているから」
そう聞くと、漁師はかえっていきました。漁師は自分の家に帰ってきたつもりでしたが、ついてみると、そこには石造りのおおきなお館がそびえたっていました。おかみさんは、ちょうど階段に立っていて、なかへ入ろうとするところでした。そして漁師の腕をつかまえて、
「さあ、なかへ入ろうよ」と言い、一緒に入っていくと、まず、床が大理石張りの大きなホールになっていました。たくさんの召使がずらずらと並んでいて、見上げるような扉を次々に開けてくれました。壁はピカピカに磨き上げられ、すばらしい模様を織り成す壁掛けがかざられています。部屋という部屋には黄金で作ったイスやテーブルがありますし、天井からは、クリスタルのシャンデリアがつりさがっています。じゅうたんは、どこの部屋にも敷き詰められていました。ご馳走やとびきり上等のワインを、いまにもつぶれやしないかと思うほど山盛りにのせたテーブルも、いっぱい並んでいました。
お館のうらには広々とした庭が広がっており、馬や牛のいる馬屋とか、立派な馬車が並んでいます。そのうえ、見渡すかぎりの見事な畑には、世にも美しい花が咲き、おいしそうな果物の木がうわっています。それだけではありません。狩場が半マイルほど永遠と続いていて、大きな鹿でも小さなのろ鹿でも野うさぎでも、とって食べたい思う獣ならなんでも飛びはねていました。
「ねえ、たいしたものじゃないか!」
「ああ、まったくだ。いつまでもこんなぐあいだといいがな。このものすげえお館にすむことにするか。文句なんかいいっこなしだぜ」
「それはこれから考えることにして、今日はもうねることにしようよ」
おかみさんはそういって、ふたりは寝床に入りました。
次の朝、おかみさんは一番に目を覚ましました。ちょうどお日様がのぼってくるところでした。寝床の中からは、みごとな土地が眺められました。漁師は大の字になって眠っています。おかみさんは、漁師のわき腹をどんどんこずいて言いました。
「ねえあんたったら、ちょっと起きて窓の外を見てごらんよ。どうだろう、あたしたち、この辺をそっくりおさめる王様に慣れやしないもんかしら? あんた、ひらめんとこへ行ってきてよ。それでもって、王様になろうよ」
「なんてことを。なんだって俺たちが王様になるんだよ。俺は、王様になんかなりたくねえや」
「なに言ってんだ、あんたがいやだって、あたしは王様になりたいんだよ。いいからひらめのところへ行っといでよ」
「そんなこと、あいつに言うには気がひけらあ」
「どうしてさ、とっとと行っといでよ。あたしゃ、王様にならなきゃどうにもがまんならないよ」
そこで漁師はでかけていきましたが、
「こんなこたあ道理にあわねえ、道理にあわねえよ」
と心の中でくり返していました。やがて海に出ると、海は一面くらい灰色ににごっていて、底のほうからどうどうと波立ち騒ぎ、腐ったような臭いがプーンとただよっていました。漁師は波打ちぎわにたって言いました。
「おういひらめの兄さんよ どんぶらこっこの波の下 うちのおっかあイゼビルが おいらの言うこときかねえんだ」
そこにひらめが現れ、言いました。
「なんだって、おかみさんはなんて言ってるんだ?」
「それがなあ、王様になりてえだなんて言ってるんだよ」
「帰ってごらん、おかみさんはもうそうなってるよ」
そう聞いて、漁師はかえっていきました。
すると、お館はもっともっと大きなお城になっていて、高い塔が、てっぺんにすばらしい飾りをつけてそびえたっています。門の前には衛兵が立っていますし、兵隊の数もたいへんなもので、太鼓やトランペットもたくさんあります。なかに入ってみると、なにからなにまで、みごとな大理石でできているうえ、どこもかしこも黄金のかざりやビロードのたれ幕や、大きな黄金のモールのふさなどでおおわれています。そのとき、大広間へつうじる扉がさっとひらき、見れば、中にはまぎれもない宮廷になっていました。
おかみさんは、黄金のかんむりをいただき、手には純金に数々の宝石をあしらった王勺を持っています。
その両側には、わかい腰元が六人ずつ、順に頭ひとつ分だけ背が低くなるようにならんでいます。漁師は、おかみさんの前につったって言いました。
「おお、おっかあ、お前、いまじゃ王様か?」
「そうだよ、あたしゃいまじゃ王様さ」
漁師は、しばらく見とれてから、やっと口を開きました。
「いやあ、おっかあ、お前が王様だなんて、てえしたもんだあ! 俺たちゃ、もうこれ以上の望みはねえなあ」
「そうでもないよ」
おかみさんはそのとたんにイライラしだしました。
「あたしゃ、もう王様なんてうんざりだ。もういてもたってもいられないよ。ひらめんとこへいってきな。こんどは、皇帝にでもなってみなきゃ気がすすまないんだよ」
「なんてこった、なんでまた、皇帝になりてえだなんて言いだしたんだよ」
「あんたはひらめんとこへひとっ走りしてくりゃいいんだよ。このあたしが、皇帝になりたいって言ってんだから」
「なあ、おい、おっかあ、ひらめだって皇帝までこしらえることはできねえよ。そんなことをあいつに頼むのは、俺はどうしたってイヤだよ。皇帝ってのはなあ、帝国にたったひとりいなさるもんなんだよ。その帝国をこしらえるなんて、いくらあのひらめでも、できねえったらできねえよ」
「なんだって、あたしは王様だよ。あんたは、ただあたしの連れ合いってだけじゃないか。はやく行っといで」
漁師は出かけないわけにはいきませんでした。歩きながら、漁師は心のなかで、「これはどうしたってろくなことにはならねえぞ。皇帝になりてえだなんて、ずうずうしいにもほどがあら、ひらめだって、しまいにはあいそをつかすに決まってらあ」と思いました。
そうするうちに、漁師は海まできていました。海はもっと真っ黒にくろずんで、ドロドロににごり、底のほうからはボコボコとガスがふきはじめていて、白い泡を飛ばしていました。風がゴーゴーと水の上を吹きすさび、それにつられて、海の面もチラリチラリと逆立っています。漁師は心底ぞっとしましたが、岸辺に踏ん張って言いました。
「おういひらめの兄さんよ どんぶらこっこの波の下 うちのおっかあイゼビルが おいらの言うこときかねえんだ」
そこに、ひらめが現れ、言いました。
「なんだ、おかみさんはなんて言ってるんだ?」
「ああ、ひらめどん、おっかあがな、皇帝になりてえだなんて言い出したんだよ」
「帰ってごらん、おかみさんはもうそうなってるよ」
そこで漁師はかえっていきました。するとそのお城は、そこはどこからどこまでスベスベの大理石になっていて、アラバスターで作った彫刻や、金の飾りでかざりたてられています。門の前では兵隊たちがザックザックと行進をし、トランペットを吹くやら大だいこをドンドンうつやら小だいこをバラバラならすやらで、もう大変な大騒ぎです。宮殿の中では、男爵さまやら伯爵さまやら公爵様といった、お国に帰れば王様と呼ばれる人たちが、ただの家来として、あっちへウロウロこっちへウロウロしています。そんな偉い人たちが、漁師のために扉を次々に開けてくれます。奥へ入ってみると、金のかたまりとしか言いようのない、二マイルほども高い玉座のてっぺんに、おかみさんがふんぞりかえっていました。おかみさんのかぶっている金の冠は、それはそれは大きなもので、三エレほどもそそりたち、ダイヤモンドやざくろ石がちりばめてあります。片手には王シャク、もう一方の手には十字架の付いた地球儀を持っています。右にも左にも、二列づつの近衛兵をズラリとしたがえているのですが、一番大きな身の丈が二マイルもある大男から、小指ほどしかない小さな小人まで、だんだんと背が低くなるように並んでいます。おかみさんのまえには、公爵さまや侯爵さまがズラズラと立っているのでした。漁師は、そんな偉い人たちの間に立って、
「おうい、おっかあ、お前、こんどは皇帝様になったんかあ?」
と呼びかけました。
「そうだよ、あたしゃ皇帝だよ。
漁師は、そこに棒立ちになって、目を丸くして見とれていました。しばらくぽかあんと眺めてから、ようやくのこと、口を開きました。
「ようようおっかあ、おまえが皇帝陛下だなんて、てえしたもんだなあ」
「ところが、おかみさんの返事はこうでした」
「あんた、なんでそんなところでボヤボヤしてるんだよ。あたしゃ皇帝だよ。こんどは法王になるよ。さあはやく、ひらめんとこへ行っといで」
「おどかすなよ、お前はなんにでもなってみたがるが、法王様にはなれっこねえ。法王様ってのはな、キリスト教の世界にたった一人いらっしゃるだけなんだぜ。ひらめがこしらえるってわけにはいかねえよ」
「行っといでったら行っといで、あたしゃ、今日のうちに法王さまにならなきゃイヤなんだよ。
「ダメだダメだ、そればっかりはうまくいくはずがねえ。お前はあつかましすぎる、だれかを法王にするなんて、ひらめにゃできねえ相談だ」
「あたしゃ皇帝だよ。あんたはただあたしの連れ合いってだけだろ。これでもあんた、行かないつもりかい?」
そうまで言われたので、漁師は情けなさそうに出かけて行きました。でも、魂の抜け殻のようになっていて、体はブルブルガタガタ震えました。歩くにも、ひざや足がよろけました。激しい風が、ビュービューと野原を吹き渡り、雲がぐんぐんとはしっていきます。夕暮れも近かったので、あたりは薄暗くなりました。木の葉が枝から吹きちぎれて飛んでいきました。海はゴーゴーという音もすさまじく、煮えくり返るように荒れ狂い、岸にドドーンドドーンと打ち寄せています。はるか沖のほうには、船がいくそうも見えましたが、助けを呼ぶ信号を打ち上げながら、木の葉のように波にもまれて上がったり下がったりしています。空はほんの少し青いところを残して、あとは大嵐のときのように、真っ赤に染まっていました。うちひしがれた漁師は、おっかなびっくり岸に立って呼びかけました。
「おういひらめの兄さんよ どんぶらこっこの波の下 うちのおっかあイゼビルが おいらの言うこときかねえんだ」
そこにひらめが現れました。
「なんだ、おかみさんはなんて言ってるんだ?」
「聞いてくれよ、あいつ、法王様になりてえだなんてぬかすんだよ」
「帰ってごらん、おかみさんは、もうそうなってるよ」
そこで漁師は帰ってみると、そこにはすばらしい宮殿をいくつもまわりに従えた、大きな教会が立っていました。

漁師は群がる人々をかきわけてその中へ入っていきました。中は幾千というろうそくをの光であかあかとれらされています。おかみさんはすっかり、金らんの衣につつまれ、前よりももっともっと高い玉座のてっぺんに座っていました。頭の上には、大きな金の冠が三重にのしかかています。おかみさんのまわりには、とうとう位の高いお坊さんたちが、たくさん集まっています。おかみさんの両側にはろうそくの明かりが二列に並び、そのうちの一番背の高いものは、世界一高い塔ほどに太く高く、一番低いものは台所の小さなろうそくほどでした。そして、皇帝も王様たちも、ひとり残らずおかみさんの前にひざまずき、おかみさんの靴にキスをしていました。
「おうい、おっかあ」
漁師はそういって、おかみさんを穴のあくほどまじまじと見つめました。
「お前、こんどは法王さまかい?」
「そうだよ、あたしは法王だよ」
漁師は、まるでさんさんと光り輝くお日様を見ているようでした。漁師はしばらく眺めると、ようやく口を開きました。
「ああ、おっかあ、お前が法王だなんててえしたもんだな」
「ところがおかみさんは、まるでまるたんぼうのようにしゃっちょこばって身じろぎもしないのです。そこで漁師は言いました。
「おっかあ、これで満足しろよ。おまえはいまじゃ法王だ。もうこれ以上、なれるもんはねえんだぞ」
「それは、これからよく考えることにするよ」
そしてふたりは、寝床に入りました。
ところがおかみさんは、これで満足だなんて、これっぽっちも考えていませんでした。欲の皮がパンパンにつぱって、なかなか眠れません。こんどはなにになってやろうかと、そればっかり考えていました。漁師はなにも知らずぐっすりと眠っていました。なにしろその日はさんざん走りまわったものですから。おかみさんはまるでねつかず、夜通し、あっちのごろり、こっちにごろりと寝返りをうっていました。そして、つぎはどんなものになれるのだろうかと、法王様よりもたいしたものなど、どうしても思いつくことが出来ませんでした。
そのうち、お日様がのぼるころになりました。真っ赤な朝焼けが見えはじめると、おかみさんはとうとう寝床に起き上がって、夜明けの空にじっと見入りました。そのとき、はたと思いました。
「そうだ、お日様やお月様をのぼらせることができないものだろうか?」
そこで、寝ている漁師のわき腹をつついて言いました。
「ねえあんた、ちょっとおきなよ。ひらめのところへ行っといでよ。あたしゃ、神様みたいなもんになりたいんだよ」
漁師はまだめが覚めずにいましたが、びっくり仰天、寝床から転がり落ちました。漁師は、なにかの聞き間違いかと思って、目をこすりこすりたずねました。
「おいおっかあ、いまなんて言った」
「あたしゃね、自分でお日様やお月様をのぼらせることもできないで、ただ眺めてなきゃならないなんて、我慢できないんだよ。あたしが自分でのぼらせることができなきゃ、おちおちゆったりした気分にもなれやしない」
そう言って、おかみさんは漁師をものすごい目でにらみつけたので、漁師はゾッと身震いしました。
「いますぐ言っといで。あたしゃ神様みたいなものになりたいんだよ」
「なあおいおっかあよ」
漁師はおかみさんの前にがっくりひざまずきました。
「そんなこと、ひらめの手にはおえやしねえよ。皇帝や法王なら、ひらめの手にもこしらえることはできるけど。なあおっかあ、お願いだ。ここはよく考えなおして、法王様でいてくれよ」
すると、おかみさんは火のついたように怒りだしました。ざんばら髪をかきたてて、自分のやせっぽっちな体を引っかきむしるやら漁師の足をどんどん蹴っ飛ばすやら、たいへんな荒れようです。
「あたしゃがまんならないんだ。あんた、行かないっていうのかい!」
漁師はズボンに足を突っ込むと、まるで気がちがったように飛び出していきました。
外では嵐が吹きつけ、ゴーゴーと恐ろしげなうなり声を立てていました。足を地面につけてたっていることすら、なみたいていではありません。家や木が、どんどん吹き飛ばされていきます。山はぐらぐらとゆれ、岩はゴロゴロと海に転がり落ちていきます。空はコールタールを流したように一面真っ黒で、カミナリがとどろき、稲妻がなっています。暗い海は教会や塔や山も呑み込むほど高く波うちうねり、どの波のてっぺんにも泡がぶくぶくとたって、まるで白い冠をかぶっているようでした。
漁師は、叫び声を上げましたが、自分の声さえもまるで聞こえません。
「おういひらめの兄さんよ どんぶらこっこの波の下 うちのおっかあイゼビルが おいらの言うこときかねえんだ」
そこにひらめが現れました。
「なんだ、おかみさんはなんて言ってるんだ?」
「ああ、あいつったら、神様みたいなもんになりてえだなんて、ほざいているんだよ」
「帰ってごらん、おかみさんは、もうまたもとの小便つぼの中におさまっているよ」
漁師とおかみさんは、今日の今日まで、やっぱりそこに小便つぼのような小屋のなかに座っていますよ。

〜完〜
ユング心理学による夢診断のお店-03

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